BIOSアップデートと聞くと、多くの人が思い浮かべるのは「新しいCPUに対応させるため」ではないでしょうか。
新世代のCPUを載せたいのにマザーボードが対応していない、だからBIOSを更新する。
たしかにそれは正しい使い方のひとつです。
ただ、最近のBIOSアップデートは、その役割がかなり広がっています。
さらに言うと、BIOSを更新していないせいで、特定のゲームが起動できなくなるということが実際に起きています。
CPUの話だと思っていたBIOSが、なぜゲームに関係してくるのか。
順を追って見ていきます。
BIOSアップデートで何が変わるのか
まず、BIOSアップデートで更新される内容を整理しておきましょう。
CPU対応は最も分かりやすい項目です。
同じソケットでも、新しい世代のCPUを認識するにはBIOS側の対応が必要になります。
マイクロコードは、CPUの動作を制御する低レベルのプログラムです。
CPU側に不具合が見つかったとき、マイクロコードの更新で挙動を修正することがあります。
メモリ互換性も更新対象です。
特定のメモリで起動しない、設定した速度で動かないといった問題が、BIOS更新で解消されることがあります。
不具合修正は幅広く、USBの認識不良やスリープからの復帰失敗など、地味だが困る症状が対象になります。
そしてセキュリティ修正です。
ここが今回の記事で重要になる部分ですね。
BIOSやファームウェアの脆弱性は、マザーボードメーカーなどが提供するファームウェア更新で修正されます。
環境によってはWindows Update経由で配信される場合もあります。
マザーボードのチップセットによる違いについては、こちらでも解説しています。
→ マザーボードのZ・B・Hチップセットの違いとは?2025年版選び方ガイドとBシリーズで十分な理由
最近はゲームにもBIOS更新が関係してくる
ここからが本題です。
近年のオンライン対戦ゲーム、特にFPSでは、アンチチートの仕組みが大きく変わってきました。
かつてのアンチチートは、ゲームが起動している間だけ動作するものが主流でした。
ところが現在は、カーネルドライバを使いつつ、Secure BootやTPM、IOMMUといった起動時のセキュリティ状態を確認・要求する方向へ進んでいます。
理由はシンプルで、チート側がより早い段階へ潜り込むようになったからです。
Windowsやアンチチートより先にコードを仕込まれると、後から検出するのが難しくなります。
完全に検出できなくなるわけではありませんが、隠れやすくなるのは確かです。
だからアンチチート側も、起動時点のセキュリティ状態まで確認しないと追いつけなくなった、という構図ですね。
そしてこの「Windowsより早い段階」を管理しているのが、BIOSやファームウェアです。
BTOパソコンで実際に起きたトラブル
この話が身近な問題として表面化した例があります。
2026年8月、BTOメーカーのBANDAL GAMINGで購入したPCが、到着からわずか4日でVALORANTのアカウントにペナルティとハードウェア制限を受けた、という報告がSNSに投稿されました。
購入者によると、発生したのはTPM関連のエラーだったとのことです。
Riot Gamesのサポートに問い合わせたところ、Secure BootやVBS/HVCIといった、アンチチートが要求するWindowsのセキュリティ要件が満たされていない、あるいは関連する制限が適用されている、という回答があったと説明されています。
ただし、この件の原因は現時点で特定されていません。
販売元は謝罪していますが、原因究明については継続中です。
SNSでは中古マザーボードが使われたのではないかという推測も広がりましたが、これは裏付けが確認されておらず、販売元は否定しています。
ここで大事なのは、犯人探しではありません。
BIOSやファームウェア、セキュリティ設定まわりのトラブルが、ゲームのプレイ可否に直結する時代になっているという事実です。
霊夢PCが届いて4日でゲームが遊べなくなるって、なかなか怖い話ね
魔理沙チートなんてしてないのに制限されるのか?
VAN:Restrictionは、セキュリティ機能が無効になっている場合や、疑わしいハードウェアの挙動など、複数の要因で適用されるの。チートを使ったかどうかだけで決まるものじゃないわ
魔理沙うへぇ、それは知らないと焦るな
Riotが実際にBIOS更新を要求している
これは個別のトラブルにとどまらない話です。
Riot Gamesは公式に、BIOS更新を要求する仕組みを導入しています。
2025年12月、Riotは複数のマザーボードのファームウェアに問題があることを公表しました。
内容を要約すると、こうです。
多くのマザーボードには「Pre-Boot DMA Protection」というセキュリティ機能があります。
これは起動の初期段階からIOMMU(メモリへのアクセスを管理する仕組み)を有効にして、不正なメモリアクセスを防ぐものです。
ところが一部のファームウェアでは、この機能が有効だとOSに報告しているのに、実際には起動初期にIOMMUが正しく初期化されていなかったというのです。
Riotはこれを、用心棒が持ち場にいるように見えて、実は椅子で眠っていた状態だと表現しています。
この隙を突けば、Windowsが起動しきる前にチートを仕込める可能性がある。
そのためRiotは、この問題を各マザーボードメーカーと共有し、ASUS、Gigabyte、MSI、ASRockなどから対策済みのBIOSが配布されています。
そしてVanguard側では、この問題が残っているシステムに対してVAN:Restrictionというエラーを表示し、ゲームを起動できないようにする措置を取っています。
つまり、対象となるファームウェアを更新していない場合、VALORANTが遊べなくなる可能性があるわけです。
なぜアンチチートがBIOSまで見るのか
もう少しだけ、仕組みについて話をします。
高額なチートとして知られているのがDMAチートです。
DMA(Direct Memory Access)は、CPUを介さずに直接メモリへアクセスする仕組みで、本来は高速なデータ転送のための正当な機能です。
これを悪用するのがDMAチートで、専用のカードをPCに挿し、Windowsを経由せずにメモリを直接読み書きします。
Windows上のソフトからは捉えにくいので、検出が難しいわけですね。
これを防ぐのがIOMMUです。
メモリにアクセスしようとする機器を選別する、いわば入口の警備員のような役割を果たします。
そしてこのIOMMUを、起動のできるだけ早い段階から働かせるための仕組みが、先ほどのPre-Boot DMA Protectionです。
ここに穴があると、警備員が配置につく前に侵入されてしまう。
だからアンチチートは、OSより下の層、つまりBIOSやファームウェアの状態まで確認するようになった、というわけです。
Secure BootやTPMが要求されるのも、同じ理由です。
起動の順序が正しく、途中で改ざんされていないことを確認したいからですね。
BIOS設定そのものに不安がある方は、こちらも参考になります。
→ 自作PC初心者向けBIOS設定ガイド|最初に確認すべき3つのポイントをわかりやすく解説
BIOSを更新しないと何が起こるのか
実害として考えられるのは、主に2つです。
ひとつはゲームが起動できなくなる可能性です。
VALORANTのように、アンチチートが要件を満たさないPCを弾く設計になっているタイトルでは、実際に起動を止められます。
もうひとつはセキュリティ機能が正常に働かない可能性です。
Riotが指摘した問題は、まさにこれでした。
BIOSの設定画面上は有効になっているのに、実際には機能していなかったわけです。
ここが厄介なところで、CPUが普通に動いているだけでは判断できません。
ゲームも動く、作業もできる、何の異常もない。
それでも、内部のセキュリティ機能が期待どおりに動いていない可能性があります。
「問題なく使えているから更新は不要」という判断が、通用しなくなってきているということですね。
じゃあBIOSは常に最新版にすべきなのか
ここは慎重に考えたいところです。
BIOSアップデートは、失敗するとPCが起動しなくなるリスクを伴う作業です。
なのでむやみに最新版へ更新するのではなく、更新内容を確認してから判断するのが基本になります。
確認したいのは、こういった点です。
メーカーの配布ページに記載されている更新内容。
セキュリティ修正なのか、CPU対応の追加なのか、特定の不具合修正なのかで、自分に関係あるかどうかが変わります。
そして対象となるマザーボードの型番とリビジョンです。
同じシリーズでも、リビジョン違いで対応するBIOSが異なることがあります。
さらに注意事項も読んでおきましょう。
更新すると設定がリセットされる、特定のバージョンからは戻せない、といった記載があることがあります。
今回のRiotの件のように、セキュリティ修正が含まれていて、しかもゲームのプレイ可否に関わるケースであれば、更新する理由は十分にあります。
逆に、自分の環境に関係のない修正だけであれば、急いで更新する必要はありません。
霊夢最新版が出たら全部入れる、っていうものでもないのね
魔理沙じゃあ何を基準に判断するんだ?
霊夢更新内容を読んで、自分に関係あるかどうかで決めるの。今回みたいにゲームが遊べなくなる話なら、更新する理由がはっきりしてるでしょう
魔理沙なるほどな。内容も見ずに突っ込むのが一番危ないってことか
まとめ
BIOSアップデートは、新しいCPUに対応させるためだけのものではありません。
マイクロコードの更新、メモリ互換性の改善、不具合の修正、そしてセキュリティ修正まで、対象は幅広くなっています。
そして近年は、アンチチートが起動時のセキュリティ状態まで確認するようになったことで、BIOSの状態がゲームのプレイ可否に直結するケースが出てきました。
Riot Gamesは実際に、Pre-Boot DMA Protectionの問題が残っているシステムに対してVAN:Restrictionを適用する措置を取っています。
BTOパソコンで購入した直後に制限を受けた事例も報告されており、決して他人事ではありません。
ただし、だからといって闇雲に最新版へ更新するのは危険です。
更新内容を確認し、自分の環境に関係があるかどうかを判断してから実行してください。
BIOSは普段意識しない部分ですが、これからは「CPUを載せ替えるとき以外は触らないもの」ではなくなってきそうです。
自作PC全体の流れを確認したい方は、こちらもあわせてどうぞ。


